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金沢美大生が「和ろうそく」をイノベーション グッドデザイン受賞

 金沢美術工芸大学(金沢市小立野2)の産学連携プロジェクトで生まれた製品が「2026年グッドデザイン賞」を受賞した。

「ねかせる和ろうそく台」で燃える「高澤ろうそく」(写真提供=三隅玲那)

 同大と九州大学芸術工学部(福岡市)が2020年に良品計画・商品開発部門(東京都文京区)と始めたプロジェクト。両校が同社の無印良品ブランドを分析した上で、それぞれの大学がある地域の産業を取り上げて商品開発を行うもの。金沢美大でプロジェクトを推進したデザイン科ホリスティックデザイン専攻の北村賢哉教授は「あえて専攻を横断したプロジェクトにした。当初は単位のない自主参加だったが、熱意のある生徒が集まった」と振り返る。

 現在、同大大学院でデザインを専攻する三隅玲那さんは2023年のプロジェクトに参加し、石川県指定の希少伝統工芸品の一つ「七尾和ろうそく」をテーマに取り上げた。自らコンタクトしたのは、県内で唯一和ろうそくを製造・販売している1892(明治25)年創業の高澤商店(七尾市)。同社が製造する「高澤ろうそく」は全国シェア1位だという。三隅さんは工場見学や経営者のヒアリングなどのリサーチを通じ、和ろうそくは植物性のろうを使っているため環境や身体に優しいこと、用途が仏事中心で使用する機会が近年減っている課題があることなどを知った。

(左から)三隅玲那さんと北村賢哉教授

 新しい和ろうそくのデザインをするためにコンセプトを練り上げていたその矢先、2024年元日に能登半島地震が起き、国登録有形文化財に指定されていた築100年以上の土蔵造りの「高澤ろうそく店」は全壊の被害に遭った。

 三隅さんは同店がある一本杉通り商店街で行われた復興イベント「一本杉マルシェ」の運営をボランティアで手伝うなど支援と交流を続けたが、復旧・復興で大変な時なので、同プロジェクトで新しい和ろうそくを開発することはできないと判断。新しい設備や型の開発など企業側の負担がない方法として、既存の和ろうそくを使って価値を伝え、拡販につなげていくコンセプトに切り替えた。

 三隅さんは和ろうそくを使った実験など試行錯誤を繰り返す中で、寝かせた状態でも火が消えないことに気付いた。和ろうそくの中心には和紙を巻いた芯による空洞があり、そこから空気が入って燃焼を助けているという。「高澤商店の社長は、和ろうそくは倒れないようにして使うことが常識だったので寝かせても燃え続けることを知らなかった。『和ろうそくのイノベーション』との評価をもらった」という。

寝かせて燃える「高澤ろうそく」(写真提供=三隅玲那)

 和ろうそくを寝かせて使うための燭台が必要になり、北村教授が無印良品のプロジェクトでつながりのあった金属鋳造の金森合金(金沢市松村6)を紹介。共同開発を進めた。同社は新聞印刷で使われたアルミ版や、廃棄されたアルミ缶などを再生させた合金を得意としている。

金森合金で燭台を試作する様子(写真提供=三隅玲那)

 安全性や燃焼性、放熱性などの課題を解決しながら、炎が美しく見える燭台(しょくだい)の形を探して試作を繰り返し、インテリアにもなじむシンプルなデザインを採用した。ネーミングは「ねかせる和ろうそく台」とした。「部屋の中で、和ろうそくの炎を小さな暖炉やキャンプファイヤーのようにして楽しむことができる。燃えている時間にリラックスしたりリフレッシュしたりと、豊かな体験を提供できると思った」と話す。

燭台の試作品(写真提供=三隅玲那)

 取材中、実際に試作品を使って和ろうそくに火をつけてもらった。寝かせることで幅の広い炎となって複雑にゆらめき、炎の形を刻々と変化させる様子を観察することができた。通常は30分程度の燃焼時間がある「和ろうそく1号」を使うが、寝かせて大きな炎をつくるために10分程度になる。植物由来の素材ならではの優しい香りがあり、かすかに芯が燃える音が聞こえ、和ろうそく特有の炎の「揺らぎ」や形の美しさを楽しむことができる体験だった。最後は芯まで燃えて、ほとんど何も残らないのも不思議な感じがした。

 9月に「無印良品 野々市明倫通り」で行った展示イベントでは10セットをテスト販売した。8月に行ったクラウドファンドでは約50セットの注文を受け、現在はその商品の仕上げやパッケージなどの準備をしている。パッケージデザインは厚紙を使ったシンプルなデザインを検討し、製造は地元の松原紙器製作所(河原市町)に依頼。商品のロゴは幅の広い炎をイメージしてデザインした。10月には、高澤商店の商品として「2026年グッドデザイン賞」を受賞し、「伝統産業の新たな可能性を開く見事なプロジェクト」だとの審査委員のコメントを得た。

パッケージの試作品

 三隅さんは学生ながら、リサーチ、コンセプト提案、プロダクトデザイン、パッケージデザイン、プロモーションなど、デザインプロセスを最初から最後までを通して経験した。これはプロのデザイナーでも簡単には経験できないことだという。11月には学生に与えられる「グッドデザイン・ニューホープ賞」も、大学の卒業制作作品で受賞した。

三隅玲那さん

 「和ろうそくを知り、見つけた価値を他の人にも伝えたいと強く思って活動した」と振り返る三隅さん。さまざまな困難を乗り越えることができたパワーの根源は、そこにあるようだ。今後はビジュアライズ(視覚化)について探求を深める活動をしたいと話す。高澤商店は「ねかせる和ろうそく台」を商品として通常販売することを検討している。店舗の再建も進み、来春には再開できる見通しだという。今回の取材を通じて、若手の発想と能登の課題が結びつくことで開かれる可能性の大きさを感じることができた。

金沢美術工芸大学
https://www.kanazawa-bidai.ac.jp/

高澤ろうそく店
https://takazawacandle.jp/