金沢市指定文化財の「旧園邸・松向庵(きゅうそのてい・しょうこうあん)」で3月18日・19日、加賀友禅作家で伝統工芸士の宮野勇造さんの作品展「『一期一会』~すべての出逢いは尊く、また一度きりである~」が開かれた。
同展は加賀友禅染色研究会が主催。「茶の湯ときもの」「金澤のおもてなし」という2つのテーマを軸に3回目の開催となる今回は、作家としての宮野さんの集大成と位置づけられ、大正期の貴重な近代和風住宅で金沢市指定文化財である「旧園邸」を貸し切って開催した。
加賀友禅の歴史は、室町時代の加賀の染め技法であった「梅染」にさかのぼり、江戸期に「兼房染」「色絵」「色絵紋」などの技法が確立して加賀御国染(おくにぞめ)と呼ばれ、なかでも「色絵紋」の繊細な技法は加賀友禅の原点になったといわれる。その後、京友禅の創始者とされる宮崎友禅斎(ゆうぜんさい)本人が金沢に身を寄せ、意匠の改善や友禅糊(のり)を完成させることで発展の基礎を作った。
公家文化の影響を受けた華麗な図案調の京友禅と比べ、加賀友禅は写実的な草花模様を中心とする落ち着きのある絵画調で武家の文化を反映。淡青単彩調の京友禅に対し、「加賀五彩」と呼ばれる「藍」「臙脂(えんじ)」「黄土」「草」「古代紫」を基調とする紅系統を生かした多彩調が特徴。また、華麗ゆえ各工程が専門化し分業化された京友禅は、一般的に「作家」が存在しない。一方、図案の考案から色差しまでを一人が行なう加賀友禅は、厳しく選ばれた者だけを加賀染振興協会に登録。「落款(らっかん)制度」の下に「作家」とよばれ、美術工芸品としての品質を確保。購入者に安心感と所有する誇りを与えている。
表千家12代惺斉宗左(せいさいそうさ)の指導により作られたという茶室「松向庵」を内部にしつらえた近代和風建築の秀作「旧園邸」の座敷で、抹茶を振る舞いながら来客をもてなす宮野さんは「通常の展示会とは違い今回は作家個人の作品展。来場者は100人を超えるほどだが、趣のある雰囲気でじっくり作品を披露できた。来年もできる限り趣向を凝らして楽しんでもらえれば」と話す。
バブル崩壊以降、加賀友禅も他の伝統工芸と同じく業界が低迷。各工房の規模縮小や廃業などが続く中、最盛期には多くの弟子を抱えたという宮野さんの工房も現在は少数精鋭。それでも仕事は絶えることはないという自身の工房で、今日も弟子とともに制作に励んでいる。