商店街としてにぎわった石引地区の思い出を地域住民と共有するイベント「石引字引」が9月14日・15日、老舗の薬局があった片岡薬局ビル(金沢市石引2)で行われた。
2021年に続き2回目となる同イベントは、同地区の住民の記憶を記録して残すと共に、若い世代や移転してきた人たちと共有することで、町の価値を見つけてもらおうとする活動。認定NPO法人「趣都金澤(しゅとかなざわ)」のメンバーと、共催する金沢大学の丸谷耕太准教授と東京工業大学の坂村圭准教授の両研究室の学生が、地域住民への聞き取りや資料収集を通じて実施した。
石引は藩政期から商業が栄え、1980(昭和55)年ごろまでは金沢屈指の商店街として栄えていた歴史を持つ。往時のにぎわいを追体験しようと、学生が段ボールなどを使って当時の看板を再現したり、近くの和菓子店などに残されていた昔のチラシや包装紙などを集めて展示したりした。
同ビルにあった片岡薬局は、藩政期の1860年に薬の問屋として石引で創業。大通りの路面電車廃線と共に増えた自動車の往来に対応した道路拡幅の際、町家を10メートル以上曳家(ひきや)した上で4階建てビルを建て、新店舗として1970(昭和45)年から2019(平成31)年まで営業した。
曳家した町家は今でも片岡家の住居で、店舗として使われていた一画を今回初めて公開。古い木製の看板や薬を分類して収納する棚などをイベント期間中に見学できるようにした。
地域住民が集まる座談会も行い、20人ほどが集まった。昔のにぎわいを知る住人からは「今ではスーパーさえないが、当時はさまざまな専門店がそろっていたので石引だけで生活ができた」「石引は盆踊りが盛んで金沢でも有名だった」「飲食店も多く、飲み屋はどこも深夜までにぎわっていた」「道路拡幅後は通りを挟んだ商店や住人の間でコミュニケーションが取れなくなり、逆に活気がなくなった」などという話が出た。
同ビルを所有する片岡康さんは「昔の石引地区の話が聞けてよかった。今後も機会があればこの場所を活用してほしい」と話す。