特集

【地域の魅力探り隊 with 北陸大学】
vol.05 地元資本「金沢彩の庭ホテル」が見据える10年後

 訪日客の増加などを背景に、宿泊客数が過去最高を記録した金沢。その裏側では受け皿となる宿泊施設も増加しており、競争は一段と激しさを増している。外資系や大手資本の進出が相次ぐなか、数少ない地元資本の「金沢彩の庭ホテル」(金沢市長田2)は、この環境変化にどう向き合うのか。ホテルのかじ取りを任されている高田恒平さん(「高」ははしごだか)に話を聞いた。


インタビューを受ける高田恒平さん(写真提供=小林日々花)

 金沢市の観光調査によると、2024年の市内宿泊客数は前年比26%増の約423万人と過去最高を記録した。このうち外国人宿泊客は前年比47%増の約84万人と急増している。円安の影響で外国人から見ると、日本への旅行が割安に映ることが背景にある。

 インバウンドの増加は宿泊業にとって追い風だが、過当競争に陥れば共倒れになるリスクもはらんでいる。これについて高田さんは「各ホテルは同じ顧客を奪い合っているわけではなく、それぞれターゲットが異なる」と指摘。「当社は3世代で家族旅行をするゲストからも好評を得ている」と語った。

 金沢彩の庭ホテルがファミリー層に好評な背景には、ホテルを建てた父の思いがあると高田さん。「自分が子どもの頃は、家族旅行で気兼ねなく泊まれる宿が少なかった。父が家族連れも安心して泊まれるホテルを作りたいと考えたのが始まり」という。

 同ホテルは家族連れが気兼ねなく過ごせる空間づくりを徹底している。館内には工芸品などを随所に飾っているが、子どもの手が届かない位置に配置しているほか、家具の角を丸くするなど安全面にも配慮している。宿泊人数が増えるほど1人当たりの料金が下がる料金体系も導入し、家族利用を後押ししている。高田さんは「ある程度の人数で宿泊すれば、週末などは近隣ホテルよりも割安に感じるはず」と話す。

 さらに強みになっているのが、グループの旅行会社「金沢アドベンチャーズ」の存在だ。これにより、宿泊と観光とを組み合わせたツアーを自社で組成できるため、「宿泊、バス、観光を一体で提供し、効率的に観光客を受け入れることができる」という。

グループが保有する観光バス(写真提供=金沢彩の庭ホテル)

 インバウンドが増えれば「オーバーツーリズム」という新たな問題も発生する。これについて、高田さんは「日本への旅行が割安に映る限り、金沢旅行の需要はまだ伸びる。ここから倍増する可能性もあり、そのための受け皿づくりをしっかり進めることが大事」と述べ、準備をすれば受け入れは可能との見方を示した。

 金沢市内の宿泊施設数は2024年に449軒と前年比4.9%増加した。コロナ禍の2020年以降鈍化していた伸びは2023年から再び加速している。すみ分けが進んでいるとはいえ、今後も金沢都ホテル跡地開発や片町・香林坊地区の再開発、北陸放送(MRO)の新社屋建設などに伴いホテルの開業が予想されており、競争環境は一段と厳しくなりそうだ。

 そうした中で生き残りを図るには、宿泊だけでなく、観光も含めた一体型の仕組みづくりが鍵となる。高田さんは「例えば外国人の場合は、来日前に観光施設などの予約が完結しているケースが多い。全て一括して予約できる体制を整えれば、受け入れ効率はより高まる」と話す。

 地元資本の強みは、フットワークの軽さと、地域の実情に基づいて経営判断ができる点にある。外部資本のホテルは都市部主導の価格設定や戦略に偏りがちだが、地元資本のホテルは地域目線での判断が可能だ。これは「金沢らしさを守ることにもつながる」という。

 「金沢らしさ」へのこだわりは同ホテルの生命線でもある。地元食材を使った食事の提供や、九谷焼や加賀友禅といった伝統文化に触れる機会、地域とつながる体験プログラムを積極的に提案している。いずれも「観光商品」というより、「金沢を知る入り口」として設計されているのが特徴だ。

ホテル内の随所に地元工芸作家の作品を展示している(写真提供=田中瞳)

 宿泊した女性客は「ホテル全体に伝統工芸品などが飾られていて、常に金沢を感じることができた。ジムやビュッフェ、温泉など部屋外のサービスが充実し、ホテル内で楽しむという感覚を味わうことができた。1泊だけではもったいない」と話していた。

 かつて金沢旅行は「質が高く、比較的リーズナブル」な点が強みとされてきた。しかし、昨今の物価上昇や宿泊費の高止まりにより、価格面での優位性は薄れつつある。高田さんは「安さを売りにする観光は限界がある。価格以上の価値をどう伝えるかが問われている」と話す。

 ホテル開業の波が押し寄せる中で、地元資本だからこそ描ける10年後の金沢観光の姿とは何だろうか。金沢彩の庭ホテルは地域に根ざした持続可能な観光モデルの構築を目指すという。ホテル単体の成長にとどまらず、グループ旅行会社との連携を通じて、地域全体の観光価値を高めることが最終目標だ。

 高田さんは「サービスに『地元の魂』を入れられるかどうかが重要」と力を込める。

 

金沢彩の庭ホテル
https://www.sainoniwa-hotel.jp/

【地域の魅力探り隊 with 北陸大学】は北陸大学の協力の下で取材を行い制作した特集記事です。
 

エリア一覧
北海道・東北
関東
東京23区
東京・多摩
中部
近畿
中国・四国
九州
海外
セレクト
動画ニュース