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山中温泉の新文化施設「加賀依緑園」――その歴史と魅力とは

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提供:株式会社リナシェンテ 制作:金沢経済新聞編集部

 人気温泉地の山中温泉に4月13日、新文化施設「加賀依緑園(かがいりょくえん)」がオープンした。元は約800年前に創業した老舗旅館「よしのや」の別荘だった建物だ。当時は山中温泉を代表する場所として、昭和天皇をはじめ多くの政府要人や文人をもてなしてきた。多くの客人に愛されたかつての旅館は数年の大規模改修を経て、今後は金沢まいもん寿司グループの(株)リナシェンテが運営を担う。リナシェンテは、能美市のサライをはじめ県内外の文化施設を多数手がける企業だ。同施設では、食や工芸を通し山中温泉の魅力を発信していく。オープンに際しては、長い歴史を大切に引き継いでいくためにさまざまな人の協力が必要不可欠だったという。多くの立役者に話を聞きながら、数棟の建築から成る館内の様子をリポートする。

時間の積み重なりを可視化して

 山中温泉のメインストリート「ゆげ街道」に面した階段を登り、門をくぐると広く開けた庭と滝、そして数寄屋建築の豪華な建物が来園者を出迎える。受付を済ませ館内に入ると、まず目に飛び込んでくるのは1階ラウンジでの展示。向かって右側のショーケースに収められているのは、年表形式で歴史をひもといているパネル。1300年前とされる山中温泉の歴史と、創業時の「よしのや」から現在の「加賀依緑園」に至る800年が並走して記載され、改めて双方の歴史の長さを感じることができる。展示コーディネートを担当したノエチカの高井康充さんに話を聞いた。「ここは単なる新施設ではなく、積み重なった歴史のうえに成り立つ文化施設。そのことを可視化して伝えることが重要だと感じた」。他にも歴代の宿泊者一覧――そのそうそうたる人々の名前が記載されたパネルや、天皇が宿泊時に使われた器なども見ることができる。

ゆげ街道沿いの立派な門が目印

1階・2階の展示スペースを担当した高井さんと、歴史を解説するパネル

空間としつらえの織りなす妙

 順路をたどり2階に上ると、ガラッと雰囲気が異なり近代西洋建築の空間が現れる。「菊の間」「桐の間」というこれらの場所はかつて貴賓室と呼ばれていた部屋で、「桐の間」は昭和天皇宿泊時に上奏室(天皇に意見などを申し上げる部屋のこと)に使われ、「菊の間」は吉田茂が次期自民党総裁に佐藤栄作を指名した、かの有名な「山中会談」の舞台となった部屋だという。それらの部屋内でひときわ目を引くのが凹凸のある重厚な壁紙。「金唐革紙(きんからかわかみ)」と呼ばれる擬革紙(革を模して作られた紙)で、江戸時代~明治時代には国を挙げての一大産業だったもの。館内には当時からの現存と、復元である「金唐紙(きんからかみ)」の両方が施されている。当時の金唐革紙が現存する建築物は国内に数カ所あるが、いずれも国指定重要文化財など名建築ばかり。これらが施されているということは、この建物の栄華を裏付ける貴重な史料と言える。「金唐革紙」と、金唐革紙研究所が復元した「金唐紙」の歴史やその制作方法、実際に触れることができるコーナーがある展示室も2階に併設する。

「菊の間」には天皇宿泊時に使われた布団も展示する

 さらに進むと、今度は広々とした純和風建築の喫茶ラウンジ「御殿」に到着する。建築当時に井波彫刻中興の祖・初代大島五雲が設計し、高名な宮大工である天日仁太郎が腕を振るったというこの部屋には、昭和天皇が宿泊された。作り手たちの技術と歴史が凝縮した空間が、この度の改装で、ゆったりと庭園を眺めながら抹茶と和菓子を頂ける喫茶空間に生まれ変わった。

四季折々の風景が楽しめる庭に面した喫茶スペース「御殿」

季節の和菓子と抹茶のセット(800円)

 建築の素晴らしさもさることながら、しつらえにも目を向けたい。実は館内のそこかしこに、かつての「よしのや」の調度品が飾られている。喫茶ラウンジから次の部屋へ移動する間の渡り廊下で話を聞いた。「例えばこちらの燭台(しょくだい)。電気供給が不安定だった時代には、各部屋にこの燭台を置いていたと聞いている」と話すのは、全体のしつらえをコーディネートした元女将(おかみ)の中曽根有希さん。実は館内に響く音楽にも、中曽根さんの演奏するクラリネットの音色が入っている。おもてなしの心の神髄を知る女将が手がけたしつらえの数々。訪れた際にはぜひ調度品へも着目し、音楽にも耳を傾けてみてほしい。

調度品は棚の上や足元などさまざまなところにあるのでお見逃しなく

かつての創造の場からの新たな発信

九谷焼作家・井上雅子さんの展示風景

 もう一つの見どころとして、工芸のギャラリースペースも外せない。金沢のひがし茶屋街にあるギャラリー&セレクトショップの「縁煌(えにしら)」が出展し、北陸3県に縁のある工芸作家の作品を展示販売している。一つは1カ月ごとに展示が替わるギャラリースペースと、もう一つは常設での販売スペースの2部屋。どちらも落ち着いた和の空間で、窓から差し込む美しい自然光の中でじっくり作品と向き合うことができる。オーナーの野原歩さんが「一点物が多いので、ぜひ何度も足を運んでいただければ」と話すように、ギャラリースペースでは今後も人気作家の展示が続く。現在行われている九谷焼作家・井上雅子さんの展示後の予定を教えていただいた。5月15日~6月13日は石川県の陶芸家・佐合道子さん、その後、7月は加賀で活躍する陶芸家・米谷彰能さん、8月は染色家の北村紗希さんと、今後も目が離せない展開が続く。このギャラリースペースがあるのは山手の一番高い場所に位置する「花月の棟」という棟。ここは旅館だった時代に多くの作家が宿泊した場所で、川端康成が長期間にわたり滞在して執筆したことや、現存はしていないがこの棟に隣接した部屋には吉川英治が滞在し、やはり執筆にいそしんでいたという。そのような文化の薫り高い場所から、今後は北陸の工芸が発信されていく。

縁煌の野原さん。九谷焼作家・山﨑大輝さんの作品の前で

この街とこの場所を大切に守ってきた人々の思いを乗せて

 今回の大規模改修に大きな尽力をした人々にも話を聞いた。まずはこの街の発展に長く携わってきた、旧よしのや依緑園別荘整備小委員会顧問の上口昌徳さん。「どこよりも歴史と文化を重んじてきた、山中温泉を代表する拠点が加賀依緑園の前身の『よしのや』だった。際立って文人墨客が多かったこの場所は、単に観光という言葉ではくくることのできない『文化の資産』。歴史の痕跡として後世に残すことこそが重要と考え、整備に携わった」。また、山中温泉のメインストリート、ゆげ街道を長年整備してきた山中温泉地域活性化懇話会会長の櫻井比呂之さんはこう話す。「この加賀依緑園の前を走るゆげ街道の整備に28年前から携わってきた。整備開始当初はまだ、バスがすれ違うことすらできないほどの細い道。その後道路と景観基準の整備などを行い、約20年かけて街道が完成してからは、街道を活かした『街なかの回遊』を目標にしてきた。今後は加賀依緑園が回遊の大切なポイントとなり、山中温泉全体の文化観光の先頭になっていってほしい」。たくさんの大切な思いを、建築として表現したのが、建築家・旧よしのや依緑園別荘整備小委員会長の喜多英幸さん。「改修については、『きちんと復元する』ことを忠実に行った。5年ほど前から本格的な改修の計画が立ち上がり、そこから2~3年間はどうしていくべきか、話し合いを何度となく行った。元の建築は京数寄屋建築であり、風雪厳しい北陸地域では実はあまり見ない、きゃしゃな造りだった。しかしその風流や、温泉文化の名残、それぞれの棟に眠る物語やロマンを捕捉できるような…そんなことを考えながら、最高の素材にこだわり、地元の大工・職人と一緒に創り上げてきた」

(左から)上口さん、櫻井さん、喜多さん

 多くの思いを乗せて、いよいよ始動した加賀依緑園。今後は株式会社リナシェンテがそのバトンを受け取り運営していく。文化の街・山中温泉から新たに紡がれていく歴史。ぜひ実際に訪れて、体感してみていただきたい。

提供:村田和人(ムラタフォトス)

加賀依緑園

電話
0761-71-2683
住所
〒922-0129 加賀市山中温泉南町ロ87番地1
営業時間
10時~18時(入館は17時30分まで)
定休日
木曜日(祝日の場合は営業)
入館料
一般600円、団体(20人以上)490円、高校生以下・障がい者は無料
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