
提供:加賀建設 制作:金沢経済新聞編集部
金沢駅から15分車を走らせれば、レトロな町並みと風情が残る港町、金石に着く。この町の中心部に、地域内外の子どもから大人、お年寄りまでもが集う、明るく開けた場所がある。2023年にオープンした「まちの居場所&学びの場所」の「金石町家(仮)」だ。
町のシンボルの一つだった築100年超の町家をリノベーションしたコミュニティースペースで、リビング、キッチン、図書室、和室、コワーキング、アトリエなど、多彩な空間が備えられ、集まった人々は思い思いに時間を過ごしている。
リビングに集まる人々(写真提供=加賀建設)
この金石町家(仮)を運営しているのは、金石で80年以上にわたり地域のインフラを支えてきた加賀建設。木造船の製造で創業し、現在は土木事業・建築事業に加え、「港町のお母さんがつくるお味噌(みそ)汁とおむすびの食堂『そらみそ』」や、石川県で親しまれてきた棒茶を川の流れを眺めながら楽しめるカフェ「Ten riverside(テン・リバーサイド)」を経営するなど、地域文化に新しい価値を付けて発信する地域活性化事業に取り組んでいる。金石町家(仮)もその一環だが、これまで取り組んできた事業とは異なる視点もあるようだ。
「そらみそ」の外観 (写真提供=加賀建設)
金石町家(仮)を立ち上げるに至った経緯を、自身も金石の住人でまちづくりに長年携わってきた加賀建設社長の鶴山雄一さんに伺った。
ここは、もともと鶴山さんの親族の家。「子どもの頃に遊んだ記憶もあって愛着がある建物なので、何らかの形で残したかった。この地域の人が休んだり、遊んだり、仕事をしたりできるような『屋根のある公園』をイメージした」と振り返る。
鶴山さんは金石地区の子どもの課題について、「共働きの世帯が増えて、子どもが家庭から学ぶ機会が減っている。放課後に友達と過ごせる場所も少なくなった。特に金石地区の子どもは金沢の中心部と比べて音楽やアートなどの文化に触れる機会や、社会との関わりから学ぶ機会が少ないと感じている」と話し、この町家を活用して解決できないかと考えたという。「教育として用意された学びだけでなく、選択肢を増やして、さまざまな学ぶ機会を与えたい。学んだ事を実施して挑戦する、失敗して、そこからまた学ぶといった試行錯誤できる環境を通じて、次の世代が新しいことに挑戦できるような社会につなげたい」と目指す姿は大きい。
(右から)話を伺った加賀建設の鶴山雄一さん、南部沙希さん、徳田菜々香さん
金石町家(仮)を運営するスタッフの一人、加賀建設・事業企画部の南部沙希さんは「そらみそやTen riversideは、地域外の人を呼び込み金石ににぎわいをつくろうとする取り組み。この金石町家(仮)では、地域内外の人が交流することで、学び合い、チャレンジを応援し合うことで、町が活性化し元気であり続けることを目指している」と話す。
通りに面した大きなガラス窓の入り口は、町家の中と外の隔たりを感じさせない。興味をそそられて入ると、椅子とテーブルが並び、奥にはキッチンがあるので一見カフェに見える。しかしここはカフェではなく、セルフサービスで駄菓子やドリンクを楽しみながら、ちょっとした打ち合わせや談笑などができる「リビング」だという。
リビングの様子(写真提供=加賀建設)
近所に住むお年寄りが散歩の途中に休憩することもあれば、子どもたちが絵を描いて過ごすことや、アーティストが町家でやってみたい企画を持ち込んでスタッフと話し込むこともある。まさしくリビングと呼ぶにふさわしく、多世代が集まる場所になっている。
リビングの様子(写真提供=加賀建設)
キッチンも自由に利用でき、小学生が「金石スイーツクラブ」を結成し、お菓子作りイベントを開いたこともあるという。その時も子どもたちの「やりたい」という気持ちを尊重し、周りの大人は知っていることをちょっと伝えただけだった。リビングでの会話から自然と生まれた企画も数多い。
金石スイーツクラブの様子 (2024年/写真提供=加賀建設)
壁には付箋が所狭しと貼ってある。これは誰もが気軽に取り組める「クエスチョン&シンク」と呼ばれるワークショップ。疑問に思ったことがお題の紙に、それに対する答えが付箋に書かれており、金石町家(仮)を訪れた人の多様な考えが見られる。楽しみながら自然と価値観を「交換」できるツールとなっている。
リビングの壁面「クエスチョン&シンク」(写真提供=加賀建設)
奥にある図書室の本は、町家で読んだり借りたりできるほか、自身の持っている本と「交換」が可能だという。
図書室(写真提供=加賀建設)
2階には静かに勉強や仕事ができるコワーキングスペースがあり、大人は1時間300円、1日1,200円、高校生以下は無料で利用できる。ここには多くの学びの機会が用意されていることが分かる。
コワーキングスペース(写真提供=加賀建設)
和室やアトリエでは、部屋をレンタルして地域内外の人が書道教室や英会話などの習い事のほか、演劇やコンサート、アート系のワークショップなどのイベントに活用している。
イベントの様子(写真提供=加賀建設)
イベントの様子(写真提供=加賀建設)
アトリエで約8カ月間かけて大きな絵を制作した作家には、滞在期間中に子どもたち向けのワークショップを開いてもらった。作家はその後、金石町家(仮)や同地域に興味を持ち、アートスクールを定期開催するほかスタッフとしても関わるようになったという。
アートスクールの様子(写真提供=加賀建設)
小さく始めて試して学ぶチャレンジを応援するサポート制度もあり、起業を考えている人や若手のアーティストも集まってきている。
さまざまな活動が行われる町家では、イベントの設計や施設の運用などで、子どもと大人の境界をなくす工夫を随所で感じることができる。「子どもが大人と自然なコミュニケーションが取れるようになった」という親の声をもらったというスタッフもいた。鶴山さんは「大人が子どもに教えることによって、逆に本人が気づかされることも多いはず。双方向の学びの『交換』につながれば」と話す。
リビングに掲げられたボード(写真提供=加賀建設)
加賀建設の本業は建築や土木の事業だが、鶴山さんは「現場があることで課題が分かるという意味では、金石町家(仮)を通じた地域活性化も同じ。まちづくりの現場と捉えると、そこは課題の宝庫。これは企業としての価値だと思っている」と話し、「会社の中でも新しいことにチャレンジする土壌ができるなど、企業風土づくりとしてもこの活動を役立てていきたい」と期待を寄せる。
加賀建設・社長の鶴山雄一さん
「金石町家(仮)」を訪れると、オープンから2年間で訪れた人々の多様な価値が「交換」され、みんなでやってみたいことに「チャレンジ」してきた様子が分かる。施設名にある(仮)の文字には、現在の姿も完成形ではなく、絶えず変化していく気持ちを込めたという。鶴山さんは「今後も世代や背景を越えて多様な価値観に触れられる場を作り、日常の中にある学びを大切にし、暮らしと学びが交差する環境を、集う人たちと一緒につくっていきたい」と話す。
金石町家(仮)の外観
金石町家(仮)にふらっと立ち寄って、そこに集う人と会話をし、やってみたかったことを始めてはいかがだろうか。その先に育まれる金石の未来が楽しみだ。