町屋金沢(金沢市主計町3、TEL076-287-0834)が金沢市内で由緒ある町屋の建物を改修し、観光の宿として一軒貸しする事業を行い注目を集めている。
貸町屋事業を営む同社が運営する一軒貸しの町屋「菊乃や」は、金沢の3つの茶屋街の一つ、浅野川のほとりの情緒あふれる主計(かずえ)町にある。1898(明治31)年に建てられたお茶屋の建物で、路地の奥で傾き朽ち果てていたものを、同社代表の正木晴正さんが「伝統的な技術で、宿泊施設としてよみがえらせよう」と一念発起。歴史的建造物修復士・武藤清秀さんの設計監理の下、大規模な改修工事を行った。「職人さんも『こんな仕事がしたかった』と喜んでくれ、手間がかかる工事に熱心に取り組んでくれた」と正木さんは当時を振り返る。
生まれ変わった町屋は2007年11月に「菊乃や」としてオープン。町屋を丸ごとレンタルするという新しい滞在スタイルを提案するとともに、お茶、生け花、謡曲、着付けなど、金沢の文化や芸能にふれるさまざまなプログラムを用意し、体験型観光を実践している。
「菊乃や」は、首都圏や関西から金沢を訪れる旅行客が、「もう一つのわが家」の感覚で利用するほか、日本の建築文化に興味がある外国人観光客の需要もあるという。「フランス人のインテリアデザイナーは、菊乃やでシャッターを切り続け、2万枚の写真を撮った。イギリスから来たご婦人は、菊乃やのヒノキのお風呂に2時間入って、『今までこんなに幸せな気持ちになったことはない』と話していた」(正木さん)。
金沢の旅行会社エムトラベルの社長でもあり、世界中を旅して回った経験を持つ正木さんは、タイから金沢観光にやって来た観光客を茶屋街の飲食店に招いた際、「こんなところに泊まってみたい」と言われたことから事業のアイデアを得たといい、主計町のこの町屋は、金沢市が運営する「町家情報バンク」を通して出会った。正木さんは「世界各国を訪ねることで日本文化のルーツが分かった。今度は町屋を通じて日本の文化を発信していきたい」と意気込みを見せる。
「菊乃や」の1軒貸し切り基本料金は、1泊2日=3人まで54,000円(朝食付き)、5人まで72,000円(同)。各種体験プログラムは料金別途。夕食は周辺の料亭や割烹の仕出しが利用できるほか自炊も可能。