10月下旬から収穫のピークを迎えるのが、秋の味覚として知られる加賀野菜の一つ、サツマイモ。とりわけ、金沢市民に最もなじみ深いのが、五郎島、粟崎、大野地区で生産されているオリジナル品種の「五郎島金時」だ。金沢弁でいう「コッボコボ」(ホクホク)の食感で、甘みが強いのが特徴。定番の焼き芋はもちろん、ジャガイモのように、ポテトサラダやシチューにしても楽しめる。
収穫したばかりの「五郎島金時」
金沢市では1945(昭和20)年以前から栽培され、現在も金沢で栽培されている野菜を「加賀野菜」として認定し、ブランド化している。金沢市でのサツマイモ栽培の歴史は古く、今からおよそ300年前の元禄(げんろく)時代末期に、五郎島村の太郎右衛門が薩摩の国(鹿児島県)から種芋を持ち帰り、その栽培方法を広めたのが始まりだと伝えられている。海岸砂丘地帯で農業には不向きとされていたが、昭和20年代にスプリンクラーが整備されたことで飛躍的に生産性が高まり、砂地の通気性や保水性、作業のしやすさを生かして、石川県内でも有数の産地となった。オリジナル品種である「五郎島金時」は1999(平成11)年、五郎島生産組合によって商標登録された。
五郎島金時の収穫作業を行う部会メンバー
JA金沢市によると、現在の生産面積は83ヘクタールで、34戸の生産者が栽培しており、2024年度の生産量は1900トンを見込んでいる。出荷は、温度や湿度が管理されたキュアリング貯蔵施設により、ほぼ通年で行われている。収穫後、表面の砂を洗い、すぐに出荷されるサツマイモが8月下旬から11月中旬まで、砂のついた状態で保存されたサツマイモが11月中旬から5月末まで供給される。今年の「五郎島金時」の出荷は8月21日に始まった。
五郎島金時をアピールする五郎島さつまいも部会の部会長忠村哲二さん
五郎島さつまいも部会の部会長忠村哲二さんによると、サツマイモは土の中で育つ分、台風などの自然災害の影響を受けにくく、他の野菜より、生産は安定しているという。五郎島をはじめとした砂丘地帯は、水はけがよく、芋の傷みが少ないのが特徴で、サイズで階級を細かく選別しているため、用途に合わせて使いやすく、加工品にも適している。忠村さんは「これから農家にとっては一番忙しい時期を迎える。今年は梅雨に雨が降って、好天に恵まれて形も大きく育った。比較的大きいものが多く、昨年より良いものができた」と話す。
五郎島金時の根切り作業風景
忠村さんは、農業は収穫すれば終わりと思われがちだが、「農家は皆さんが思っている以上に大変な仕事」と笑う。「年を越すと、出荷作業に加え、苗の準備や畑の整備で、やることは山積み。部会のメンバーは、地域の幼なじみや友達で仲がいい。自分の畑が終わったら、隣の畑の手伝いをする。助け合って、チームワークで生産している。おいしいサツマイモを喜んでもらえることが一番うれしいし、たくさんの人に味わってほしい」。
収穫したばかりの「五郎島金時」
毎年、恒例となっている子どもたちの芋掘り体験も好評。忠村さんは「子どもたちにサツマイモを知ってもらい、親しんでもらう上で、芋掘りは一番の近道。楽しそうな姿を見るのは生産者としてうれしい。これからも、おいしいサツマイモを届けたい」と意気込む。
箱詰めされた五郎島金時
「金沢農業まつり2024」が10月20日、JA金沢市本店(金沢市松寺町)で開催される。「五郎島金時」をはじめ、旬の加賀野菜を多数用意し、採れたての農作物の販売や、クイズ大会、抽選会なども行う。