金沢市近郊の田んぼで、「とくの幼稚園」(白山市)や「津幡とくの幼稚園」(津幡町)の園児120人と保護者が参加して5月21日、田植え体験が行われた。園児はこれまでに代掻き(しろかき)作業を体験しており、水田には慣れっこ。ためらうことなくはだしで泥の中に入り、丁寧に苗を植えていった。
田植えを指導するのは農業法人「林農産」を営む林浩陽さん。「体験と知識のいずれか一方だけでは、本当に農業を理解してもらうことはできないから」と、苗見学に始まる一連の農作業の体験プログラムの実施に加え、農業や食に関する出張授業も行っている。
林さんは1983(昭和58)年に本田技研のデザイナーから転身。家業を継いで農家となった。以来、「都市部の棚田の守り人」を自任し、金沢市に隣接する野々市町の住宅街の真ん中で営農を続けている。
「都市部の農地も山間地の棚田と同じく、その土地を守る多面的機能を持っている」と話す林さんが、小学校や幼稚園を対象にした稲作体験授業の活動を始めたのは13年前。当時は「食育」の言葉もなく、手探りで方法を模索していた状態だったという。
真面目に食育に取り組んでいる県内の農家を紹介し、消費者に国産、地元産の農産物を選ぶ視点を持ってほしいという思いから、昨年は雑誌「農育人」(発行=アグリファンド石川)の刊行に携わり、同誌の企画で尊敬する服部幸應さん(服部学園理事長)との対談も実現した。
今年は同幼稚園を含め、4園1校で稲作体験授業を行うという林さん。田植えの前に必ず言うフレーズは「苗は3本ずつ植えてください。1本目は虫さんの分、2本目は鳥さんの分、3本目はみんなの分です」――自然と共存していく農業の大切さに気付いてほしいという願いが込められている。