イベント「石川の瓦、その価値と文化 ~瓦バンクの活動から見える課題~」が8月27日、金沢未来のまち創造館(金沢市野町3)で開催された。
主催は、認定NPO法人「趣都金澤(しゅとかなざわ)」。当日は、同法人の不定期イベント「リベラルアーツ・カフェ」のゲストとして、オンラインショップ「WHOLE(ホール)」を運営する吉澤潤さんと、鬼瓦を専門に制作する「鬼師(おにし)」の森山茂笑さんが登壇した。
2人によると、これまで小松市で瓦の啓蒙活動を行っていたが、令和6年能登半島地震発生後に訪れた珠洲市で、貴重な能登の黒瓦が廃棄されていく様子と、地域住人の黒瓦に対する強い思い入れを目の当たりにしたという。そのため2人は、瓦をレスキューして再利用する方法を探る「瓦バンク」のプロジェクトを3月から始動した。
吉澤さんは「震災直後は瓦屋根のせいで家が倒壊したなどのうわさも流れ、瓦が悪者扱いされてしまうことに我慢できなかった。能登の風景や文化の重要な要素であるはずの黒瓦がなくなっていくことに何とか手を打とうと活動を始めた」と振り返る。
森山さんによると、地元の土を高温で焼いた能登の黒瓦は、ずっしりと重く頑丈だという。潮風や風雪に耐えられるつやのある黒いうわぐすりの材料も地元産で、「瓦の裏側にまで丁寧にうわぐすりが掛けられているのが特徴」とも。「金沢の街並みの景観を特徴づけている黒瓦も、元々は能登から船で運んできた物」と森山さん。一方、能登の黒瓦の製造は1970年代をピークに減少し続け、石川県内に唯一残っていた小松市のメーカーも2022年に廃業。石川の瓦は完全に途絶えてしまったという。
「今後、急速に公費解体が進むと黒瓦は投げ落として粉砕し廃棄されてしまうため、解体が始まる前のタイミングでレスキューする必要がある。最近になって、坂茂事務所、NPO法人『ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク』、越前セラミカの協力を得て瓦バンクの活動が組織的に動き始めた」と吉澤さん。回収後の再利用については、瓦の中古市場がないことや、建材として再利用するには品質保証が必要などの課題が山積しており、専門的知見や関係者のネットワークが必要とも。
この日のイベントでは、来場者と意見交換の場が設けられ、「屋根瓦としてだけではなく、さまざまな作品に素材として活用できるはずだ」というアーティストのアイデア、「粉々になってしまった瓦でも廃棄物で終わらせないで活用する方法があるのでは」という大学教員の提言などが寄せられた。
吉澤さんは「個人が瓦を庭先に積んで残しておくという小さな行動を含めて瓦バンクの活動だと考えている。さまざまなレベルで知識を集め、能登瓦の価値と文化を未来につないでいきたい」と話す。「9月7日、瓦レスキュー活動を珠洲市三崎町で行う。興味のある人は足を運んで現地の課題を体感してほしい」とも。