江戸時代の町屋建築で88年の歴史を持つ老舗料亭の「壽屋」(金沢市尾張町2、TEL 076-231-6245)が始めた、精進料理の世界に新しい切り口を求める「愛され昼食プロジェクト」が注目を集めている。
同店では7月から、仏事のイメージが色濃い精進料理を、「どこよりも金沢らしい」をコンセプトに、幅広い世代に向けた身近でおいしい料理として提供したいという思いから同プロジェクトを始動。女性100人をモニターに、アンケートや昼食メニュー「普茶点心」の試食会などを重ねている。また、親子で料理の盛り付けを体験する機会など、食育の場を地域社会に積極的に提供している。
山縣秀行社長は「精進料理のもつ『ヘルシー』『ローカロリー』『野菜』などの良いイメージに加え、当店ならではの見た目、華やかさ、細かい仕事を分かりやすく伝え、特に子どもや年配者においしく安心して召し上がっていただけるものを提供したい」と話す。
同店の精進料理は、昆布とシイタケで正しくだしを引き、旬の加賀野菜などを中心におよそ60品目もの野菜類を使う。伝統の味を大切にし、洗練された味わいが特徴。名物の「韃靼(だったん)そば」は、普通のそばの100倍以上のルチンを含み栄養価が高く、独特の苦味と料亭ならではの繊細なつゆの相性が評判で人気のメニューになっている。
そのほか、肉や魚を使わない「精進のお造り」はユニークだが、その正体は胡桃と松の実。丁寧にすりつぶし、木の実の香ばしい風味が寒天でふんわりと閉じ込めた珍しいメニュー。「手間をかけ細工を施した料理には材料の正体を見抜く楽しみもあり、精進料理になじみのない若い世代でも、野菜に親しみながら体に優しい料理をいただけるのが人気の秘密」(同)とも。
同店の建物は、江戸時代の町屋建築が土台で、明治時代には呉服問屋として使われていた。その後、こけら葺きの屋根や、金沢の町屋の特徴だった「さがり」も復元。見事に生まれ変わった建物は金沢市の指定保存建築物にも指定されている。150年の歴史を重ねた店内には、江戸、明治、大正、昭和それぞれの時代の部屋があり、各々が個性を持ち風情がある。四季の移ろいを愛でる江戸末期の座敷や、鮮やかな群青色の壁に囲まれた明治中期の書院造りの「群青の間」などがあり、テーブル席を配した和洋折衷の空間も楽しめる。
お昼のコース=2,625円~、夜のコース=8,085円~。営業時間は11時30分~14時、18時~22時(入店は19時30分まで)。