4月29日から5月4日まで約1週間にわたり、石川県立音楽堂(金沢市昭和町)をメーン会場に開催された「ラ・フォル・ジュルネ金沢『熱狂の日』音楽祭2011」で、国内外から集まった約100団体2,700人の演奏家・アーティストが、それぞれの思いを込めてシューベルトの世界を描き出した。
オーストリア出身のバリトン歌手ヴォルフガング・ホルツマイアーさんは歌曲集「冬の旅」全24曲を披露し、失恋して人生に絶望し、町を出てさすらいの旅を続ける若者を演じた。「シューベルトは私にとって神。メロディーの奥に深奥な感情が込められていて、どの曲も聴衆の心を深く揺り動かす」と、日頃から「歌曲王」に心服するホルツマイアーさん。オーケストラ・アンサンブル金沢の演奏に合わせ、時に荒々しく、時にささやくように歌い、さすらい人の底知れぬ悲しみと孤独感を伝えて観客の涙を誘った。
NHK教育テレビのピアノ番組で、シューベルトの楽曲指導を担当したことがあるフランス出身のピアニスト、ミシェル・ダルベルトさんはバイオリニストの庄司紗矢香さんらとともに、「ピアノ三重奏曲第2番」を演奏した。他の晩年の作品同様、苦悩を表現した主題を3度、4度と繰り返す第2番。この曲に思い入れがあるというダルベルトさんは「人間の深い内面は苦しみや悲しみを通じてしか表現できない。シューベルトの曲は人の心を慰める。東日本大震災の被災者にも聴いてもらいたかった」と被災地を気遣った。
日頃はベートーベンを核に演奏し、「この世にいながら透明なあの世にあこがれたシューベルトは、人生最後の時期に取り上げたい」と話すのはピアニストの仲道郁代さん。音楽祭では、これまであまり弾いたことが無かった「ピアノ・ソナタ第13番」などを独奏しファンを喜ばせた。宝生流シテ方で重要無形文化財の渡邊荀之助さんは4歳で初舞台を踏んで以来、初めてクラシックの歌曲を地謡に使ってオリジナルの能舞を披露した。原曲「美しき水車小屋の娘」は女性に恋をした若者が失恋し死を選ぶ悲劇だが、渡邊さんは「希望」「人間の内面の力」「祈り」を擬人化した、原曲の歌詞とは全く違う作品を生み出し、観客から大きな拍手を受けた。
「0才からのコンサート」では、作曲家の青島広志さんとテノール歌手の小野勉さんが乳幼児を抱いた家族らとともに「野ばら」を合唱。小さな子どもたちにもわかりやすく魅力を紹介した。
最終日の4日夜には、同音楽堂で千葉県柏市立柏高校吹奏楽部や東京大学音楽部管弦楽団などが出演してフェアウェルコンサートが行われ、観客が閉幕を惜しんだ。実行委員会によると、4月28日の前日祭を含む1週間の会期中、概算で過去最高の延べ約12万人が35会場で行われた181の公演に足を運んだ。金沢市香林坊、竪町、武蔵などで開かれた「街なかコンサート」には、約1万9,300人が訪れた。
会見に臨んだアーティスティック・ディレクター、ルネ・マルタンさんは来年の同音楽祭のテーマについて、「ロシア音楽に焦点を当て、ロシア5人組やチャイコフスキー、ショスタコービッチ、ラフマニノフらを取り上げたい」と構想を明らかにした。