能登にイチゴを栽培する施設があるのをご存じだろうか。能登島に通じる橋「ツインブリッジのと」に程近い高台の林を進むと、やがて開けた場所に太陽光発電のパネルが並んでいるのが見える。その横に並ぶ農業用ハウスが、イチゴを栽培する「アグレッシブアグリ鹿島台」(七尾市)だ。太陽光発電施設と共に運営しているのは金沢に本社がある北菱電興(ほくりょうでんこう)で、FA機器を中心とした電気・電子機器の販売から、各種制御システムの開発・製造、建築設備の設計・施工まで幅広く手がけている。
ハウスの外観
同施設を運営するスマート・アグリ・システム開発室長・中寺紳一さんに話を聞いた。同社では太陽光発電設備の販売・施工を行っているが、自分たちで実際に発電施設の運営を経験し課題を知ることで、新しい開発や挑戦につなげることができるのではないかと、太陽光発電施設の建設を計画したという。中寺さんは長年にわたり建築の設備設計や施工管理の仕事をしてきたベテランエンジニア。プロジェクトは当時の上司と2人で始めた。雑木林だった土地を購入、整地することから始め、発電施設を設計して施工した。

太陽光発電施設の写真
取得した土地の一部を活用した新規事業を検討することになり、スマート農業についてもハウス栽培を自ら経験して設備制御の知見を得ようと企画した。「雇用創出によって能登の地域活性化にもつながるはず」と考えた中寺さん。2013(平成25)年には発電設備の稼働とハウス栽培の出荷の両方を実現することができた。

施設を説明する中寺紳一さん
ハウス栽培する作物は、農業の専門家と相談してイチゴに決めた。県内ではイチゴを出荷している農家が数軒しかなく、希少価値があるということも判断を後押しした。品種は「紅ほっぺ」と「あきひめ」で、ブランド名は社内公募で「のとひかりっ娘」とした。

ハウス内の設備
ハウスの建設と同時に、スマート農業として作物の生育環境を制御するシステムを開発。設置したセンサーで気温、湿度、土壌温度、照度、CO2濃度などをモニターし、それらデータに基づいた空調やファンの運転、遮光カーテンの開閉、散水などをタブレット端末で操作できるようにした。ハウス専用の太陽光発電を備えることで、オフグリッド(電気の自給自足)とCO2排出量の削減を目指した。

タブレット端末
「通信を介してハウスに行かなくても操作できるため、労働環境も改善した。全自動で運用もできるが、高品質な商品を作るためには、まだ人の感覚や経験が必要。経験値を高めて将来に備えていきたい」と中寺さん。

タブレット端末を操作する中寺さん
2024年元日におきた能登半島地震では、シーズン最初の出荷予定だったイチゴが全て廃棄となってしまった。ハウスは倒壊こそ免れたが、地盤や配管などに被害があった。中寺さんは「2月まで断水が続いたが、イチゴはそれに耐えてくれたので4月には出荷できた。イチゴの生命力はすごいと感じた」と振り返る。

施設を説明する中寺さん
イチゴは石川県産の食材にこだわりを持つフルーツ店などを中心に出荷しているため、全てを金沢中央市場に卸しているという。中寺さんは「現在の収穫量は年間4トンだが、6トンを目指している。鮮度や味など品質も高めていく。将来的には能登でも出荷し地産地消できるようにして、能登の名物にしたい。スマート農業のシステムを活用することで、農業の素人でも高品質な野菜や果物を栽培できるようになるという夢を実現したい」と意気込む。

ハウスで育つイチゴ
今回取材したハウス栽培で培ったノウハウを活用して水平展開すれば、さまざまな農作物への適用も可能だろう。太陽光発電を活用したオフグリッドや、リモート操作による省力化などのテクノロジーは、震災後の能登が抱える人口減少や地域経済などの課題を解決する糸口になるかもしれない。能登のイチゴを通じて、思いがけず未来に向けたさまざまな可能性を感じることができた。