金沢のデザイナーが能登の和倉温泉で団子の店を開いたというので、話を聞いた。
モリモトシンゴさん(写真提供=モリモトシンゴ)
伺ったのは、金沢にデザイン事務所・ボスコを開いて15年になるというモリモトシンゴさん。出身は七尾市和倉町で、温泉地で生まれ育ったという。
和倉温泉は、能登半島地震の震災で激変した。海に面した土地では護岸工事が始まり、温泉旅館など被災した建物の解体などが進んでいる。震災前は大規模な旅館が立ち並ぶ一方、旅館の外に出歩く宿泊客が少なかったために街の中でにぎわいを感じることがなかったが、地元では復興に向けて観光客が歩いて巡れるまちづくりをしようと検討が始まっている。
モリモトさんは、この復興を機に地元の和倉温泉を若い人が来てくれる街にしたいと思い、店を開こうと考えた。8年前に同じく和倉町で「能登ミルク」のカフェをプロデュースし、工夫すれば若者が来てくれることを実証した経験が後押しした。
おだんごスタンド「シロネコの団子」(写真提供=シロネコの団子)
店の名前は、おだんごスタンド「シロネコの団子」。7月7日にオープンした。シロネコは幸福を呼び込む招き猫をイメージして店名に入れ、イラストを制作してキャラクターとして展開した。店舗は源泉の湧き出る「湯元の広場」に面した建物を知人から借り、観光で訪れた人に向けて自販機が並んでいたという1階部分を改装。店は白い色で統一し、青い文字や看板でアクセントとした。店のスタッフは地元の若い人を中心に手伝ってもらうという。
おだんごスタンド「シロネコの団子」(写真提供=シロネコの団子)
団子の店にしようと思ったのは「温泉地や観光地と言えば団子を食べ歩きするイメージがあった。コーヒースタンドがあるなら、『おだんごスタンド』があってもいいのではと考えた」とモリモトさん。石川県ではあまり団子を目にしないことに触れ、「武家文化で茶の湯が盛んなのでお菓子の格が高く、庶民的なだんごはメジャーにならなかったのでは」と推察する。それでも他にない特徴になると思い、能登産の塩を練り込んだ「能登塩だんご」を金沢のメーカーと開発したという。
「シロネコの団子」の「能登塩だんご」(写真提供=シロネコの団子)
一見地味な団子。一般的な「みたらし」「こしあん」だけではなく、トッピングにイチゴのフレーバーやクラッシュナッツなどの洋風テイストをメニューに加えて、SNS映えする見た目を考えた。地元の日本茶専門店「田尻寅蔵商店」から仕入れる茶葉を使った抹茶ラテやほうじ茶ラテには、「塩だんご」と生クリームをトッピングするメニューを加えた。
「シロネコの団子」の「抹茶ラテ」(写真提供=シロネコの団子)
団子のメニューのほか「能登塩だんごクッキー」や、和倉の温泉水を使って塩サイダー風にした「能登温泉サイダー」などのオリジナルの商品も開発して店に並べた。サイダーは市内の能登島にある「金澤ブルワリー」の工場に製造を依頼しているという。
「シロネコの団子」の「能登温泉サイダー」(写真提供=シロネコの団子)
モリモトさんはシロネコのイラストを制作し、キャラクターとして店のビジュアルに活用するほか、Tシャツやトートバッグなどのグッズにも展開して販売している。これらオリジナル商品は、今は「シロネコの団子」の店にしか置いていないが、金沢駅構内の店などでも展開することを検討しているという。
「シロネコの団子」のオリジナル商品(写真提供=シロネコの団子)
一方、モリモトさんは震災で建て直すことになった近隣店舗のブランディングなどを手伝っている。街の復興に伴い、これから新しくできるであろう商店や飲食店をデザインの側面で手伝おうと、「シロネコの団子」の入る建物内に印刷機器を置き、POPやチラシなどの販促物を安価で速やかに提供できるような施設を計画している。
おだんごスタンド「シロネコの団子」(写真提供=シロネコの団子)
「能登の復興は長い時間がかかるが、それを待っているわけにはいかない。外の人を呼び込んで街を活性化させたいし、若い人にももっと遊びに来てもらいたい」とモリモトさん。今は七尾を中心とした業務が多くなり、金沢の事務所へは週に何度か通うペースになったという。「復興で街の風景が変化するのであれば、前の状態よりは確実に良いものにしていきたい。デザイナーとしてまちづくりに関わり、これから新しく作られるものを良くしたい」と話す。
これから復興に向けて変わっていく能登。デザインが果たす役割は大きそうだ。
シロネコの団子
開店時間9時~17時
水曜・木曜定休
テイクアウトのみ
七尾市和倉町ヨ部57
https://shironeco.jp/