工芸やアートの作品を街のさまざまな場所に展示する「GO FOR KOGEI(ゴー・フォー・コウゲイ)2024」が9月14日に始まった。昨年と同じ富山市岩瀬エリアの会場に加えて、今年は金沢市の観光客でにぎわう「ひがし茶屋街」がある東山エリアでも展示を行っている。今回の特集では、東山エリア5カ所の会場をリポートする。
東山エリアのインフォメーション・センターとなった「KAI」
5回目となる今回のテーマは「くらしと工芸、アートにおける哲学的なもの」。総合監修・キュレーターで東京芸術大学名誉教授の秋元雄史さんは「東山地区は昔から陶芸などの工芸が盛んで、職人も多く住んでいた。『くらしと工芸』というテーマにふさわしい場所」と話す。「近年は工芸とアート、道具と工芸など、ジャンルを分けて考える傾向が強いが、本来は明確な区別がなかった。暮らしで使う美しい道具は工芸でありアート」とも。
(左から)解説する三浦さんと総合監修の秋元さん
東山エリアで最も大きな展示は、卯辰山中腹にある昭和の木造アパート2階の床を抜いて改装した施設「KAI 離(かい・はなれ)」(金沢市東山2)。普段は非公開の同施設では、所有する建築プロデューサーの三浦史朗さんが、職人チームの「宴KAI(えんかい)プロジェクト」と共に創作した組み立て式の茶室を2つ設置した。
待合として使われたアルミの骨組みの茶室
茶室の一つはアルミ製の骨組みに半透明の樹脂シートを張って作り、もう一つは古材を組んで作った2階建てで、外側には木製のらせん階段を設けている。どちらも分解して移動させることができ、三浦さんによると、美術館などのイベント会場に持ち込んで茶会を催すこともあるという。
古材で組んだ2階建て茶室(白い壁の部分)
宴KAIプロジェクトのメンバーでもある木工作家・中川周士さんが製作したヒノキの桶(おけ)も、茶室の前に置いて手水(ちょうず)鉢として使っていた。
中川さんの製作した桶
三浦さんは室町時代に行われていたという、入浴と茶の湯と酒宴を組み合わせた「淋汗茶湯(りんかんちゃのゆ)」に着想し、茶室の横にはヒノキの浴槽を設置して入浴できるようにした。実際に何度も茶会を開いてきたという三浦さんは、イベント期間中にも「淋汗草事(りんかんそうじ)」と名付けた宴席を開くという。
風呂のしつらえ
「KAI(かい)」(同)も三浦さんが所有する施設で、古い木造住宅を改装したギャラリー。ここでは輪島塗の塗師(ぬし)・赤木明登さんが、自ら収集した古い輪島塗や木箱などの資料を使ったインスタレーション作品を制作し、大谷桃子さんの自然をモチーフとした大きな絵画と共に展示した。
赤木さんのインスタレーション
自らも被災したという赤木さんは、インスタレーションに能登半島地震の被災地の産地再生の思いを込めたという。高く積まれた粗削りの椀木地(わんきじ)は、輪島にある工房に行けばよく見られる光景だという。
赤木さんのインスタレーション
「tayo(たよ)」(同)は町家を改装した施設で、金工作家の竹俣勇壱さんが作業場を兼ねた「ビューイングルーム」として空間デザイナーの鬼木孝一郎さんと共同で作ったという。トイレやシャワールームなども凝ったデザインで、見学することができる。部屋には竹俣さんが制作した金属製の食器や家具などの作品を展示し、インテリアと共に生活スタイルを提案している。
竹俣さんの金工作品
ひがし茶屋街にある和栗専門カフェ「和栗白露」(観音町3)で会期中に提供されるモンブランには、特別に赤木さんの制作した漆のトレーと、竹俣さんの製作したナイフとフォークが使われるという。
赤木さんのトレーに盛り付けたモンブランと竹俣さんのカトラリー
「LOCOLOCO HIGASHI(ろころこ・ひがし)204号」(東山1)は、ひがし茶屋街の近くにある町家で、店舗が複数入居する施設の一室。小さな階段を上がった所にある隠れ家のような部屋に、京都「開化堂」店主の八木隆裕さんが制作した金属の茶筒を展示した。開化堂に残る歴代の古い茶筒も並べ、作りが全く変わっていない反面、金属の質感が少しずつ経年変化している様子を見ることができる。
茶筒の経年変化を示す展示
八木さんはコーヒー豆やエンジンオイルなどが入っていた古い空き缶をリメークして茶筒に仕立てた作品も制作し、部屋の棚に並べた。
八木さんがリメークした茶筒
同じ建屋の104号に入居するスパイス店「INSPICE kanazawa(いんすぱいす・かなざわ)」にも茶筒を展示し、商品のスパイスやハーブティーなどを入れて香りのテイスティングができるようにした。
「INSPICE kanazawa」に置かれたスパイスを入れた茶筒
金沢市指定保存建築物の大きな町家に入居する「SKLo(すくろ)」(尾張町2)では、木工作家の川合優さんが制作した「経木(きょうぎ)の蓮弁(れんべん)皿」を展示する。作品の背景について、川合さんは「東日本大震災の被災地を訪れた際に膨大な量のごみを目の当たりにして、自然のサイクルに合った木工の可能性を考えるようになった」と振り返る。
経木の皿の展示
経木の皿は、イベント期間中に同居するレストラン「四知堂kanazawa(すーちーたん・かなざわ)」で提供する料理に使い、使用後は回収し、森に埋めて土に返すという。
「四知堂kanazawa」で料理に使われる経木の皿(左奥)
東山エリアの会場は、古い町家を歩いて巡っていくという特別な体験だった。複雑な路地は迷路のようで、まるで探検をしているようなわくわくした気分になり、改装して実際に使われている町家のディテールを観察するのも楽しかった。展示作品を見るだけでなく展示環境を含めて体感し、実際に店などで使ってみることで、同イベントのテーマにある「くらしと工芸、アート」のそれぞれが、実はとても近い関係であることに気付くことができるようにプログラムされていると感じた。
開催時間は10時~16時30分。料金は、東山エリア1DAYチケット=1,000円、共通パスポート=2,500円など。10月20日まで。