「ATO-CAS」はひも付きのキャスターと持ち手のセットで、底部が直径8.5~9インチの丸型のキャディーバッグにワンタッチで装着できるのが特長。お気に入りのバッグを買い替えることなく、わずかな金額と手間でキャスター付きに変えられる。
こんなアイデア商品が、ゴルフ用品メーカーでもない同社から誕生したのには理由があった。
青木寛社長(55)はビジネススクールの元校長。職を辞し、2001年6月に1人でコンピューター・ソフト開発の会社を設立して採用面接用ソフトを作っていたが、職員や講師ら多くの人間に囲まれていた前職と違い、相談相手のいない経営者の立場は孤独だった。
「人と群れたい」。
仲間を求める人間の本能に突き動かされるように、2008年、県中小企業家同友会に入会。さらに、共通の話題作りのため、同会内にゴルフ同好会を結成し、自ら会長に就いた。
必要に駆られてとった行動だったが、実は、スコアは120程度の初心者。自分に合ったクラブセットも持っておらず、同好会メンバーとコースを回るため、用具を買いそろえ、せっせと練習場通いを始めた。
閉口したのが、クラブ14本を入れたバッグの重さ。15~16キロにもなり、特に夏の暑い日にはうんざりした。かと言って、買ったばかりのバッグをキャスター付きのものに買い替える気には、到底なれない。
そんな時に思い付いたのが、後付けキャスターだった。
ホームセンターで角材を買い求め、バッグの底の形に合わせて糸のこで成型し戸車を付けた。持ち手に使ったのはタオルハンガー。仲間には笑われたが、楽々と移動でき使い勝手がいい。
「同じように底が丸いバッグを持っていて、重いと感じている人は国内のゴルフ人口約1000万人の1%はいるだろう。その1%に売れれば、1セット3,990円で3億9,900万円の売り上げになる。これならいける」。
新たな商売の種を見つけ、血が騒いだ。
早速、図面を引き、知り合いの金型メーカーとテントメーカーに協力を依頼。角材に代えてポリカーボネートで試作品を作り、ゴルフ用品販売の「二木ゴルフ」(東京都板橋区)に持ち込んで、全国の店舗で扱ってもらう契約を結んだ。
二木ゴルフは、北は北海道から南は福岡県までの全店のチラシに「お薦め商品」として掲載し、その直後は店頭から在庫がなくなるほどの人気を集めた。今も順調に売れ行きを伸ばしている。買っていくのは主に女性や年配男性たち。ゴルフコンペの賞品として求める人も多い。同社商品部は「ほとんどのお手持ちのバッグに付けられるし値段も手頃なので、キャスター付きバッグの値段が高くて手に入らなかった人にすごく喜ばれている」と評価する。
県からは本年度の「石川ブランド優秀新製品」に認定され、反響に気をよくした青木社長は、採用面接用ソフトの開発から「ATO-CAS」の製造販売に本業を転換。商品の写真入り名刺も作り、自社の顔として売り出した。
社長兼従業員がたった1人の会社故、最終組み立ては自身の仕事で、他社との合同事務所の一角で自ら部品を検品し、手作業で車輪を付け、シールを張って発送する。地味な工程だが、自分の頭脳から生まれた「わが子」を世に送り出すのは楽しいという。
これまでにインターネット販売も合わせ約400セットが売れた。
2月17日からは、待ちに待った大きな商機が訪れる。東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれる「ジャパンゴルフフェア2012」だ。会場にブースを設け、国内をはじめ、中国、韓国、ベトナムから集まる愛好者やゴルフ用品販売店、代理店の担当者ら約5万人に売り込むことにしている。
「世界的なお披露目の場になる。これで1カ月に2500セットくらい出るようになればいいな」と期待を膨らませる。
本来の目的だった同友会での人づきあいも順調だ。
一緒にコースを回ることで、これまで心理的に遠く感じていた人が自宅に誘ってくれたり、気安く声をかけてくれたりするようになった。手堅い経営をする人はゴルフも手堅く、一代で創業した経営者は冒険をする-というように、プレーから個々人の性格もうかがえて面白い。
月1回以上のコンペと年1回の遠征、そして熱心な練習場通いの成果が現れ、自らのハンディは24に上がった。大会で優勝することもある。
ゴルフは求めていた人との交わりと仕事、そして夢を与えてくれた。
そして、まだまだビジネスチャンスをもたらしてくれると感じている。
「必要は発明の母だ。これからも必要とされているのに、世の中にはまだないというものを考えていく」と意欲を燃やす。
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