石川県立伝統産業工芸館(金沢市兼六町、TEL 076-262-2020)で現在、企画展「600年の伝統の技~美しき加賀繍(しゅう)の世界~」が開催されている。
加賀繍の歴史は古く、室町時代に仏教の普及とともに仏前の打敷きや僧侶の袈裟(けさ)などの荘厳飾りとして京都から北陸地方に伝わった。江戸時代には能衣装や加賀友禅などの着物や帯に施され、気高い美しさと豪華さで生活に華を添えた。現在にも継承されているその技は、金糸・銀糸など多種多様な絹糸を使い、模様や絵を一針一針、手縫いで仕上げる芸術として高い評価を受けている。
同展では、繊細で緻密な技を受け継ぐ伝統工芸士と工芸士を目指す人たちの作品約50点を展示している。
中でも目を引くのが、加賀藩主・前田家にまつわる衣装を再現した作品。加賀刺繍協同組合が製作、金沢美術工芸大学の関教授が監修した。「菊鐘馗図陣羽織」は、豊臣秀吉が越中の佐々成政を討つため遠征する途上、加賀を訪れた際に前田利家が着ていたと言われる陣羽織で国重要文化財に指定されている。茶系統を主体に、裏地に鮮やかな萌黄でアクセントをつけた色調は、古画の気品を緻密に再現している。「白紋儒子地水仙唐花丸紋模様繍小袖」は、三代目藩主利常の夫人・珠子が興(こし)入れした時に所用していたと言われる加賀市指定文化財。表地の紋儒子は雷雲に蘭の繊細な紋織で、水仙と唐花丸紋の格調高い2種のパターンが表現されている。
そのほか、帯や壁掛けをはじめ、日傘やバッグ、ブックカバー、テーブルランナーなどの日用品まで、加賀刺繍の美しさがあふれる芸術品が並ぶ。同館スタッフは「室町時代から伝わる伝統の技・加賀繍の芸術性に触れ、その世界を堪能してほしい」と話す。
開館時間は9時~17時。第3木曜休館。入場料は、大人=250円、17歳以下=100円、65歳以上=200円。9月23日まで。