泉鏡花の真骨頂「幽霊と怪談」の世界を探る展覧会-金沢・泉鏡花記念館

泉鏡花記念館で開催されている「幽霊と怪談の展覧会」

泉鏡花記念館で開催されている「幽霊と怪談の展覧会」

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 泉鏡花記念館(金沢市尾張町2、TEL 076-222-1025)で現在、「幽霊と怪談の展覧会」が開催されている。明治期の鏡花を中心とした「怪異」な作品58点を紹介する会場は、その静けさが怪異な世界をさらに助長している。

無惨にも裸の妊婦が逆さ吊りされた月岡芳年画「奥州安達がはらひとつの家の図」

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 「なぜ怪談か?」そう問われた鏡花は、「ただ私の感情で止めることができない。お化けは私の感情の具体化で、幼いときに聞いた鞠唄(まりうた)などには残酷なものがあり、蛇だの蝮(まむし)などが長者の娘をどうしたとか言うのを今でも鮮明に覚えている」と答えた。

 明治時代後期、自然主義文学の隆盛期にリアリズムへの志向をより強めた文壇が、一方でひそかな怪談ブームを迎えていた。現実をありのままに写そうとする文学思潮の陰で、現実から最も遠い世界に引かれた文豪らにより、怪談はさまざまな形でクローズアップされていった。

 そうした文学世界は批判の対象ともなったが、自らの作家としての立場を語ることに迫られた鏡花は、自身の文学態度を表明。幼いころから見聞きした怪異な世界に触れたときの微妙な感情を作品として描いていくことこそが、芸術の使徒としての自負だとして、独自の文学世界を開花。その象徴となったのが彼の描く怪異・幻想の世界だったという。

 リアリズムへの反動からか、当時、多くの文化人によって怪談会が開かれ、鏡花は怪異文学作家の象徴的存在となったといい、日本古来の伝承や江戸期の怪談に素材を求めつつ、独自な怪談の世界を切り開いた。同展では、これら潮流の文学作品や絵画を展示している。

 「予の態度」(鏡花、明治41年)は、自然主義文学に傾倒する文壇の風潮に対する反感を表現している。「遠野物語」(柳田国男、明治43年)は、鏡花と交流の深い柳田が岩手県遠野地方に伝わる民間伝承を記録した。月岡芳年が描いた「奥州安達がはらひとつ家の図」は、福島県の安達ケ原に伝わる人食いの鬼女伝説を描いた錦絵で、古くは「大和物語」に見られ、後に歌舞伎や浄瑠璃にも脚色された。「怪談会」(泉鏡花他、明治42年)は、鏡花をはじめ鈴木鼓村、画家の鏑木清方、作家の小山内薫らによる怪談集で、序文を鏡花が記しており、執筆者の多くが鏡花と交流の深い人物であることから、鏡花を中心に編集がなされたことがうかがえる。「眉かくしの霊」(泉鏡花、大正13年)は、長野県の奈良井村を舞台とする鏡花の怪談の傑作として名高く、霊が現れるまでの予兆の表現が見事で、イラストレーターの山六郎の斬新な挿絵でも広く知られている。

 開館時間は9時30分~17時。観覧料は、一般=300円、65歳以上=200円、高校生以下=無料。4月19日まで。

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