金沢市内のホテルが3月18日、東日本大震災の被災者の受け入れを始めた。初日は夕方までに福島県から避難してきた家族ら4グループが到着。当面の落ち着き先を見つけた安堵(あんど)感から泣き出す女性もいた。
このホテルは「キャッスルイン金沢」(金沢市此花町)。被災者に安心できる場所を提供しようと、3棟のうち1棟40室を受け入れ専用とし、ツインルームとトリプルルームを1部屋1泊2,500円で提供することにした。
当初は3連休の最終日である21日からスタートする予定だったが、自社のホームページで告知したところ、被災後、行く先のあてもないまま自宅を離れ車で移動中の家族連れや、1~2日前に金沢市内に到着し、かさむ宿泊費を心配しながら他のホテルに泊まっている避難者たちから問い合わせが相次いだ。このため、急きょ前倒しして18日から実施することにした。
この日、宿泊予約に訪れた同県郡山市、建設会社経営中川裕史さん(34)は16日、自宅から約60キロ離れた東京電力福島第一原子力発電所4号機の壁に穴が開いたというニュースを聞き、子どもの健康を案じて避難を決断。同日20時ごろ、妻の麻理さん(34)と、小学生と幼稚園に通う子ども3人を連れ車で自宅を離れた。行く先は決めていなかったが、先に避難した知人から新潟県ではガソリンを購入できると聞いていたため、同県を経由して北陸へ。金沢入りしたのは17日6時ごろだった。
移動中、携帯電話を使って宿泊先を探したものの、19日から3連休が始まるため、どこのホテルも予約でいっぱい。ようやく見つけた同市内のビジネスホテルに宿泊したが、週末の滞在費は平日よりも高額になるため今後を心配していたという。
中川さんはほっとした表情を浮かべ、「昨日も一昨日も、明日のことしか考えられなかった」と、この数日間を振り返った。「もう福島県に戻る気持ちはない」とも。麻理さんは郡山市に残してきた実母や、福島県庁で住民の被ばく量測定を担当している兄の身を案じていた。
同ホテルにはこのほか、同県の家族ら3グループがチェックイン。このうちの一家族の母親は「不安でどうしたらいいか分からなかった」と話し涙をこらえきれない様子だった。同県を後にし、新潟県を車で走行中の家族ら2グループからも、18日の宿泊を予約する電話があった。また、自宅が被災し、車中暮らしを強いられている茨城県の6人家族からは修理の間、滞在したいと依頼の電話がかかった。この家族は25日に到着する。
同ホテルではまた、長期滞在する被災者向けに、自社保有の賃貸マンションを敷金・礼金なしで貸すことも考えている。
藤橋由希子取締役営業部長は「チェックインされた方の中には、自分たちだけ安全な場所に逃げて来たという罪悪感があると話される方もいて涙が出そうになった。できる限り力になりたい。被災者の経済的負担を減らすため、同業他社の皆さんや不動産業者の方にも後に続いてほしい」と話す。