金沢交通圏のタクシー会社が、運賃を巡って熱い攻防を繰り広げている。全国的な値上げ申請が相次ぐ中、石川県では今年8月、地場最大手の大和タクシーグループが「値上げせず」を決定、翌9月にはさらに値下げ申請を行ったものの、原油高騰を背景に11月に入って一転、申請を撤回した。同グループの動きに合わせ値下げ申請した27社も、16日までにすべて取り下げており、初乗りの下限運賃560円で営業する一部タクシーへの乗客の流出と経営安定の板挟みの中で、業界内の神経戦は当分続きそうだ。
タクシー運賃の改定は、同一地域内で車両数の70%を超える申請があった場合、運輸局が審査する仕組み。当初、値上げを申請していた大和タクシーグループ3社などが8月、「二重運賃で利用者が混乱する」として申請撤回をしたことで、金沢交通圏の申請率は78.2%から62.5%に下がり、「これでは改定の審査が中止される」との不満の声が同業者から上がった。
当初の申請通りなら、1.7キロメートルで630円の小型車初乗り運賃を1.1キロメートルで550円に下げる代わりに、330メートルごとに80円の加算運賃を258メートル前後ごとに100円とし、全体として20%ほど値上がりする運賃体系となっていたが、9月に入ると大和タクシーグループは、「下限運賃で営業する会社がさらなる値下げを検討している」との理由で、今度は、北陸信越運輸局に対して初乗り運賃を560円に値下げする申請を行った。
これに驚いたのが、同社とシェア争いをする大手の石川交通だった。「大和さんが値下げするのに、うちが値上げするのでは勝負にならない」として値下げ競争に追随。後は、なだれを打つように値下げ申請を出す会社が続出し、9月末には金沢交通圏の大半を占める30社に上り、「原油高で値上げしたいのはやまやまだが、安いタクシーにお客が奪われては元も子もない」(タクシー業者)などの悲鳴が上がった。
ところが金沢交通圏の値下げ申請が認可される間際の11月7日になって、大和タクシーグループ3社が「このところの燃料高は予想以上。当初なら何とかやれるという計算もできたが、これでは会社がもたない」と一転、値下げ申請を撤回。猫の目のように変わる同社の方針に値下げで横一線となっていた他社は大慌てとなった。すでに、新メーターの発注を終えた会社や個人タクシーも多かったからだ。
とはいえ、燃料高で収益が減少する中、さらに収益を圧迫する値下げは避けたいというのが本音。翌8日に石川交通など8社、翌々9日に12社、12日に7社が申請の取り下げに動き、値下げ申請した30社すべてが撤回した。
今のところ、個人タクシーには撤回の動きは出ていないが、法人全社が値下げ申請を取り下げたことで、近く申請を撤回する可能性が高くなったと見る向きが多い。