特集/コラム

【インタビュー】2007-04-22

描き出すアートな街
井上道義さん(オーケストラ・アンサンブル金沢音楽監督)

オーケストラ・アンサンブル金沢(以下OEK)の2代目音楽監督、石川県立音楽堂のアーティスティック・アドヴァイザーに今年1月に就任した井上道義さんは、音楽に限らず舞台全般にアンテナを広げる根っからの舞台人。井上さんの目には、金沢の街はどのようなステージとして映っているのだろうか。

■舞台としての金沢は可能性に満ちている


OEKの音楽監督を引き受けようと思ったのは、まず、オーケストラがいいから。それに金沢21世紀美術館のようなものをつくろうとする人を受け入れる人たちが住んでいるらしいと聞いて、OEKがここまでになったのも岩城宏之さん(※OEK初代音楽監督)ひとりの努力の問題じゃないな、と。きっと環境がよかったから種が育ったと読んだから、来たんです。

音楽堂ができたのはすごいと思うけど、ほかの街にだってホールがないことはないんだ。でも、21世紀美術館も、金沢市民芸術村みたいなのもあって、温泉も近くにあって、食べるものもおいしいっていう所はあんまりないんだ。それで、市長が面白いことに興味があって、知事が私利私欲に興味がない。そういうムードであることが、音楽監督を引き受けた理由ですね。舞台としては可能性に満ちた場所。そう思います。だから、あとは現実的に中身を入れていくのが我々の役目です。

■芸術家や芸術好きが集まるアートの街に


うまくいくかどうかはまだわからないけれど、頭の中では、駅前の音楽堂から近江町市場や香林坊を経由して21世紀美術館まで行く道と、それにくっつく枝のような道や街角も利用して、そのあたり全部でアートが見られるフェスティバルを思い描いています。例えば京都の祗園祭りや葵祭りは、道を練り歩く何かを観衆が見ているというパターンです。そうではなくて、道の周りにあるものの中を人々が練り歩くというかたちを考えているんですね。できれば、フェスティバルの間は、大通りを通行止めにして・・(笑)。

もう一つの案は、東京国際フォーラムでゴールデンウィークに開催されている「ラ・フォル・ジュルネ」という音楽祭の金沢版。フランスのナントで音楽プロデューサーのルネ・マルタンが始めた企画なんですけど、わざわざおめかしして行くタイプの音楽会じゃなくて、料金が安くてプログラムが短いからいくつでも行ける。どのプログラムを選ぶか苦労するような音楽会なんです。音楽に限らず、彫刻を飾ったり、自称芸術家がいろんなところで自分のものを展示したりしてもいい。パリのモンマルトルに絵描きが集まった時代があるじゃないですか。今のモンマルトルは観光場所になって、実際は何もないんですけど。金沢が一昔前のモンマルトルみたいになるきっかけになればいいかなと思っています。アートに対して興味がある人が多くて、地方公共団体も後押しをする街だというイメージが出来上がれば、芸術家たちも仕事がしやすくて住みやすいということになるんじゃないかと思っているんですね。

ぼく自身は、いろんなところで今までに言っているように、金沢には今のところ愛情がないんだけど(笑)、そういうことをやっているうちに好きな場所ができてくるのかな、と思ったりしています。金沢にあるオーケストラが、音楽だけじゃなくて、いろんなアートの起爆剤になることを今、画策しているところです。音楽は音楽だけで内向したくないんです。

■金沢=兼六園を卒業して未完成の面白さを


金沢の街は、ちょうどいい大きさなんじゃないかな、と思っています。人に会うのに苦労しない。京都(※井上さんは1990~1998年に京都市交響楽団の音楽監督、常任指揮者を務めた)のサイズでもいいんだろうけど、現実的には京都は今、大きくなっちゃって、京都らしくないところまで京都になっちゃって。建物の高さ制限の規制を作り変えたりするところについては、京都は素晴らしいと思っているけど。だから、街はあんまり大きくならないほうがいい。もうひとつ、京都のいけないのは、古いものがありすぎるところ。古いものがあるために、それだけで観光客が来ちゃうんですよ。金沢も、兼六園だけにお客が行っている間はダメだと、ぼくは思いますよ。すぐ近くにあるけど、21世紀美術館にみんなが行くようになって、金沢はよくなる。だから、ぼくは金沢に来たんだと思う。

お寺の庭で言えば、龍安寺の石庭みたいなのは、毎回行ってみたいと思うんだよね。あそこまで何もないと、見えるんだよね、毎回違うものがね。あの庭は不思議で、光が違うのか、季節が違うのか、自分が違ってきたのか、いつも違って見えるっていうのはね、すごい芸術だと思うね。兼六園みたいに、あそこまで人工的で「これ、よろしいお庭ですね」みたいに言われると、「だから何なの、ぼくの人生にとって何の関係があるの?」みたいになるから(笑)。前田さんには申し訳ないけど。兼六園は、広すぎるんじゃないかな。あまりにも完成されて入り込む隙がない。ぼくが兼六園に対して心が開かれていないだけかもしれないけど。未完成の面白さがあるっていうことですかね。人間は、完成しないんですよ。

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