アメリカ人の有名建築家で、家庭常備薬「メンターム」で知られる近江兄弟社の創業者でもあるウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏により、1951(昭和26)年に設計された清泉幼稚園(金沢市橋場町、TEL 076-231-0764)がこのほど、老朽化への対応と耐震化のため建て替えられることになった。
同園は1926年、カナダ婦人宣教師たちの熱心な伝道と教育活動により「十四番幼稚園」として設立。1951年に名称を「清泉幼稚園」に改め現在の場所に移転した際、園舎を設計したのがヴォーリズ氏。以来、約3千人にも及ぶ卒園生や地元住民に愛され親しまれてきた。
ヴォーリズ氏は1880年カンザス州生まれ。英語教師として来日し、日本各地で教会、学校、病院、住宅、YMCAなど、西洋建築の設計を数多く手がけ、1941(昭和16)年に日本に帰化。妻の姓を取り「一柳米来留(ひとつやなぎめれる)」と名乗った。
YMCAの活動を通して熱心にプロテスタントの伝道を行う傍ら、讃美歌の作詞作曲やハモンドオルガンを日本に紹介するなど音楽にも造詣が深かった。代表的な建築作品は、軽井沢ユニオン教会(1918年)、旧神戸ユニオン教会(1928年、国登録有形文化財)、明治学院大学礼拝堂(1916年)、関西学院大学の時計台(1929年、国登録有形文化財)、大丸百貨店心斎橋店(1922年)など多数に及び、現在、全国で42件が登録有形文化財に認定されている。1964(昭和39)年、83歳で亡くなった。
今月10日まで行われた現園舎の一般公開には、卒園生やヴォーリズ建築のファンが全国から訪れた。ヴォーリズ建築のファンで全国の作品を見て歩いているという小松市在住の男性は「ヴォーリズの作品が建て替えられる前に、一度見ておきたかった」と熱心に見学していた。
新園舎は卒園生の建築家が手がけ、完成は来年3月を予定。現在と同じ木造建築の「トラス構造」を採用。ヴォーリズ氏が設計した階段の手すりなど再利用できる部材を生かし、面影を残しながら新たに生まれ変わる。今月18日には「同窓会&にこにこバザー」を行い、新園舎に引き継げないヴォーリズ氏設計のドアや消火器などが出品される「メモリアルオークション」も予定する。
同園とともに人生を歩んできた高橋昭代理事長は、ヴォーリズ氏が実際に書いた当時の設計図を広げ、「フィートやインチで書かれた図面に、当時の日本の大工さんたちが苦労していた思い出がよみがえる。現園舎にはいろいろな思い出が詰まっているが、子どもたちの安全のため耐震性を備えた新園舎への建て替えが必要。ヴォーリズ氏の面影を残した新園舎でも、刻んだ思い出と歴史を大切にしたい」と話す。