石川近代文学館(金沢市広坂2、TEL 076-262-5464)で現在、県内ゆかりの作家らが書いた怪談を集めた「怖いこわーい話展-三文豪から現代作家まで-」が開かれている。幽霊の話のほか、生身の女性の負の心理を描いた「現代の怪談」(同館担当者)もあり、来場者が肝を冷やしている。
怪談でおなじみの県内出身作家といえば三文豪の一人、泉鏡花(1873~1939)。子どものころから、加賀、能登、越中に残る怖い話を集めた「三州奇談」を愛読していたといい、主人公の男が山中の一軒家に住む美しい妖女に出会うという筋立ての「高野聖」や未完成作「白鬼女物語」、「飛縁魔(ひのえんま)物語」、加賀藩の実話を元にした「妖怪(ばけもの)年代記」など作品は多数。会場には、和紙に墨書きの自筆原稿なども並べられている。
同市在住の少女漫画家波津彬子さんが書き下ろした、鏡花作品によく登場する百間堀に身を投げて自殺した女性のイラストも展示され、冷たい空気を漂わせている。
金沢で長く実在のものと信じられていた「てんぐ」の話を1932(昭和7)年、雑誌に投稿したのは、同じ三文豪の徳田秋聲(1871~1943)。フィクションを嫌うことで有名だが、てんぐにさらわれたという近所の男性の話を実話として随想に記しており、その掲載紙面を紹介している。このほか、旧制第四高等学校の学生寮に伝わる話や、市内の怪談マップ、市内在住の染織工芸作家北村紗希さんがカッパや「豆腐小僧」ら日本の妖怪たちを題材にして仕上げた型染め作品も。
会場の一角には、生きた女性のどろどろとした内面を描いた女性作家のコーナーも設けられた。同市出身の唯川恵さんや桐野夏生さんらの著書を採り上げており、担当者は「男性が書く女性の幽霊は『うらめしや』と言っても追いかけてはこない。だが、女性作家の書く女性は追いかけてくるし、リアルで本当に怖い」と、「現代の怪談」として一読を勧めている。
展示点数は約150点。開場時間は9時~17時。入館料は一般=350円、大学生=280円、高校生以下無料。11月30日まで。
7月29日19時~と8月21日14時~には朗読会も行う。7月29日は泉鏡花の「縷紅新草」(抄)、8月21日は唯川恵さんの「夏の少女」を読む。参加無料、申し込み不要。9月には文芸評論家で怪談専門誌「幽」編集長の東雅夫さんによる特別講演会と「ふるさと怪談トークライブ」も予定している。