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旅行会社と加賀友禅作家が考える「金沢らしいツーリズム」とは

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 旅行会社「金沢アドベンチャーズ」(金沢市長田2)がラグジュアリーバスを追加導入した。同社が所有する中型バスとしては3台目。通常27席のところを15席に改造したバスを2台運用しており、今回は乗客のグループの人数に幅広く対応できるようにと24人乗りにした。いずれもリクライニングシートの座席や冷蔵庫などの設備を備える。

ラグジュアリーバス「彩の風」

 同社によると、金沢の旧市街を走るのに大型バスは適さないということで、中型バスを中心に導入しているという。バスは主に貸し切りで運用するほか、主催する能登や白川郷などへの観光ツアーにも活用している。

 同バスは「彩の風」と名付け、全ての車体に加賀友禅作家・毎田仁嗣さんのデザインした外装を施している。最初に導入したのは2021年。加賀五彩と呼ばれる伝統色の一つである藍色をベースに、華やかな加賀友禅が風にたなびく様子と、金沢らしい雪づりや雪の模様のモチーフで現代的にデザインしている。

ラグジュアリーバス「彩の風」のデザインを説明する加賀友禅作家の毎田仁嗣さん

 毎田さんは「金沢の街になじむことを第一に考えた。バスまでも金沢らしいと思ってもらえるようなデザインにしたかった」と話す。

加賀友禅作家の毎田仁嗣さん

 同社は金沢彩の庭ホテルのグループ企業。両社を運営する高田恒平さん(「高」ははしごだか)によると、ホテルはOTA(インターネットで取引する旅行会社)からの予約が中心でインバウンドが3割程度なのに対し、バス事業はインバウンドを誘客するグランドオペレーター(海外旅行を手配する旅行会社)と取引しているため、利用客の8割以上がインバウンドだという。

事業を説明する高田恒平さん

 日本へのインバウンドが2024年には過去最高の3600万人を超え、観光地のオーバーツーリズムが問題になる中で、高田さんは「工芸作家の工房見学は人気があるが、作家が制作に集中できるよう慎重に計画している。伝統工芸を守りながら観光業を盛り上げることが重要。地元が疲弊しないようにしなければ」と話す。ホテルの廊下にはさまざまな地元作家の作品を展示して紹介し、要望に応じて販売したり工房へ誘客したりするなど、客と作家とのつながりも作っているという。

 同社は金沢の旧市街にある毎田さんの工房を見学するツアーも企画している。毎田さんは「参加者はアメリカやフランスなど欧米からのインバウンドがほとんど。一般的な観光ツアーに組み込まれた消費としての見学ではなく、真剣に文化を学ぼうという姿勢を感じる。気に入った作品があると、値段を気にしないで購入してくれるお客さまも多い」と話す。

工房で加賀友禅の制作デモンストレーションを行う毎田仁嗣さん

 毎田さんは高田さんと旧知の仲。ツアーだけでなく、イベントなどさまざまな提案や相談が気軽にでき、すぐに判断・実行できているという。

 観光庁は2021年に策定した「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりに向けたアクションプラン」で、高付加価値旅行層はインバウンド全体の1%にもかかわらず消費額は11.5%あるとして、重視していく方針を立てた。その中で、大都市圏での消費をいかに地方に広げるかという課題を提起している。

 高田さんは、運営するグループ会社はこの課題解決にも即した事業だと胸を張る。「大きすぎず小さすぎず、程よいサイズの旅行会社とホテル事業を同時運営しているので、オーバーツーリズムを起こさず目が行き届くサービスを提供できている。ホテルは口コミ評価も高く、『じゃらんアワード』を連続で受賞した。全てのスタッフが観光案内できるなどのグループ会社間のシナジー効果も大きい」と話す。

事業を説明する高田恒平さん

 コンパクトな街のサイズに見合ったバスやホテルであるだけでなく、事業を構成する人的ネットワークもコンパクトで強い信頼関係があることも、この観光事業を支えている重要な要素となっているようだ。今後も、金沢という街だからできる「金沢らしいツーリズム」のあり方を提案・実現してほしい。

 

金沢アドベンチャーズ
https://kanazawaadventures.com/ja/

 

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