
トークイベント「物語をつなぐかたち 馬具と杖(つえ)」が3月15日、金沢21世紀美術館(金沢市広坂1)シアター21で行われた。同館とエルメスジャポンの共催。
「アートや手仕事がどのように物語を紡ぐか」という問いがトークのテーマ。会場には80人ほどが集まった。
同社レザーアトリエ・マネジャーのカリーヌ・グラモンさんによると、エルメス全体の47%が職人で、日本では14人の皮革職人がバッグなど年間1万件の修理に手作業で対応しているという。中には40年近く使い続けた思い入れのあるかばんを修理に持ち込む客もいることに触れ、「顧客の思い出が詰まった物を預かって修理することは、その人の物語や歴史を次の世代に伝えていくこと」と話す。職人自らが若い頃にフランスの工房で手がけた製品と巡り合うこともあり、それは手の感触で分かるという。
エルメスジャポンの有賀昌男社長は「当社では1つのかばんを1人の職人が22時間かけて手作業で作っている。入社当時に分業で効率を上げてはどうかと提案したことがあるが、複数のアーティストでは芸術作品に魂は込められない、とたしなめられた」というエピソードを紹介。「創業から190年近くたっても手仕事が持つ精神性を大切にしているところは、日本の伝統工芸と通じる」と話す。
能登半島地震の被災地をフィールドワークで訪ね、地元伝統工芸の職人とコラボした作品を制作している現代アーティストのオトボン・ンカンガさんはオンラインで登壇し、つえのような形をした作品に込めた物語や、日本の手仕事に接して感じたことなどについて話した。
最後のパネルディスカッションでは、登壇者全員で手仕事の持つ物語性について意見を語り合った。