金沢の泉鏡花記念館(金沢市下新町、TEL 076-222-1025)と金沢能楽美術館(広坂1、TEL 076-220-2790)で現在、共同企画展「鏡花と能楽」が開催されている。
同展は、今年が泉鏡花(1873-1939)の名作「歌行燈(うたあんどん)」が発表された1910(明治43)年からちょうど100年にあたることを記念して企画された。「歌行燈」は無芸の芸者が能楽界を追われた元能楽師から指導を受け、能「海人」の仕舞を舞うというストーリーで、能楽を描いた数ある鏡花作品の中でも代表作とされる。
同展では、美しく幻想的な鏡花の文学世界の源流には能楽があるとして、母方の祖父が江戸詰の加賀藩お抱え能楽師・大鼓方(おおつづみかた)であったことや、叔父が将軍徳川慶喜も師事した宝生流シテ方の松本金太郎であったことなど、これまで広く知られていなかった鏡花と能楽界とのかかわりを解説する。
泉鏡花記念館では、「宝生流の双璧(そうへき)」とたたえられたいとこのシテ方、松本長の仲人を務めた際、文壇仲間に送った手紙や、祖父と金沢在住の大鼓方との間で、近況報告のためにやりとりされた書簡、「歌行燈」の自筆原稿など48点を展示する。
また、金沢能楽美術館では、能「海人(あま)」で使われる衣装の「舞衣(まいぎぬ)」と面「泥眼(でいがん)」、松本金太郎・長親子についての解説文、美麗な装丁で愛好者から人気がある「鏡花本」など約30点を並べる。
泉鏡花記念館の学芸員穴倉玉日さんは「祖父の書簡から、これまでほとんどわかっていなかった母親、鈴の足跡もうかがい知ることができる」とし、金沢能楽美術館の主任学芸員山内麻衣子さんは「鏡花はもちろん、祖父の中田万三郎や松本金太郎、長も能楽の世界で有名な人だが、互いの関係は『知る人ぞ知る』というものだった。企画展を通じて、人となりをわかっていただければうれしい」と期待を込める。
展示は前後期に分かれ、前期は泉鏡花記念館が8月6日まで、金沢能楽美術館が8月1日まで。後期は両館とも8月7日~9月26日。開館時間・休館日は泉鏡花記念館=9時30分~17時・会期中無休、金沢能楽美術館=10時~18時、月曜休館。入館料はそれぞれ、一般=300円、65歳以上=200円、高校生以下無料。両館観覧の場合は1館目の半券を提示すると、2館目は一般が250円となる。