石川県立図書館(金沢市小立野2)の企画展「本の装丁 棟方志功と同世代の芸術家たち」関連イベントが5月12日に行われ、ブックデザイナーの祖父江慎さんがブックデザインについて話した。
祖父江さんによると、同展で展示している棟方志功らが装丁した昭和初期の本は出版社が画家や工芸家に絵を依頼して作っていたが、近年はブックデザイナーが表紙だけでなく作品の本文に使う書体やレイアウト、紙の種類など本に関わる全てのことをデザインしているという。
祖父江さんが手がけたディック・ブルーナさんの絵本「うさこちゃん」シリーズはロングセラー。ミッフィーの名前でも知られている同作は、子どもが絵を見て描きたくなるようにシンプルで記号化されたキャラクターで、誰もが持っていそうなクレヨンの色だけを使っているのが特徴。祖父江さんは表紙のデザインだけの依頼だったにもかかわらず、扉や本文のレイアウト、さらにはオリジナルの書体を作って提案した。文字組みも、大人だとすらすらと読みにくいかもしれないが、作者の意図をくみ取って、わざときっちりとそろえず、ゆったりと組んでいるという。そのほか特殊なインク配合や特別に作った紙を使うなど、細部にわたってさまざまな指示をしている。
夏目漱石の「坊ちゃん」のさまざまな文字組みの本をコレクションしている祖父江さんは、一枚のはがきに「坊ちゃん」全文を印刷したものや、道後温泉(松山市)で旅館の一室の壁や天井などに全文を貼り巡らせた作品などを制作したことがあり、これらは全て本だと考えているという。
最後に「ブックデザインは本全体を考えること。しかも自分がこうしたいと考えるのではなく、作家の意図や本の内容に寄り添ってそれを表現することが大切」と締めくくった。
開館時間は9時~19時。月曜休館。同展は6月2日まで。無料。